小説「サークル○サークル」01-403. 「加速」

 自分が何かをするのなら、緊張を通り越し、腹をくくることが出来る。けれど、誰かの緊張を伴うシーンを見るのは、なかなか安心することが出来ないものだ。
 アスカはそんな緊張に気付かれないようにじっとヒサシのことを見た。ユウキを見ているより、ヒサシを見ている方がいくらか心が落ち着いた。それはきっとヒサシの佇まいが落ち着いているからだろう。
「不倫は幸せになれないからです」
 ユウキははっきりとした口調で言った。あまりにもはっきりと言ったので、アスカは思わずユウキを見てしまった。
 ユウキの言葉にヒサシは黙っている。表情一つ変わってもいない。
 ユウキはきっとそんなヒサシを見て、不安を覚えていることだろう。
 アスカは黙ったまま、次の展開を待った。
 ほんの少しの沈黙の後、ヒサシはテーブルに視線を落とした。
「不倫は幸せになれない、か」
 ヒサシはそれだけぽつりとつぶやくと、コーヒーに口をつける。
「不倫が幸せか不幸せかは、個人差があるとは思いませんか」
 ヒサシの言葉にユウキが動揺するのがアスカには手に取るようにわかった。

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