小説「サークル○サークル」01-425. 「加速」

約束の時間から少し遅れて、マキコがやって来た。
「お待ちしておりました」
アスカはドアを開け、マキコを招き入れる。マキコのお腹は傍から見てもわかるほど膨らんでいた。
「ごめんなさい。遅れてしまって」
然して、悪いと思っていないような言い方で、マキコは言った。
「いえ、大丈夫ですよ。今、紅茶をお淹れしますね」
アスカはつも以上に丁寧な口調で話した。きっとアスカ自身も、今からマキコと対峙しなければならないことに少なからず、緊張しているのだろう。
紅茶はノンカフェインのものを選んだ。妊娠しているというマキコの身体に配慮してのことだった。
お湯を沸かし、茶葉の入ったポットにお湯を注ぐ。きっかり、三分経ったのを見計らって、カップに紅茶を注いだ。
「お待たせしました。どうぞ」
「ありがとうございます」
テーブルに置かれた紅茶を見て、マキコは頭を軽く下げる。
「紅茶はノンカフェインのものにしましたから、ご安心下さい」
「はい、ありがとうございます」
マキコは微笑む。この微笑みの下には、一体どんな顔が隠れているんだろう、とアスカは思った。この女がかぶっている猫は一枚や二枚じゃない気がしてならなかった。


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