小説「サークル○サークル」01-71. 「動揺」

「君は……」
 黙々と食べているアスカにシンゴは思い詰めたような声で言った。アスカは咀嚼しながら、目だけで「何?」とシンゴに問いかける。シンゴは一瞬躊躇うようにアスカから視線をそらし、徐に口を開いた。
「君はその誘いを本当に断りたいと思った?」
「えっ?」
 シンゴの言葉にアスカは思わず、手に取りかけたほうとうの入ったお椀をテーブルの上に置いた。
「何言ってるの? 当たり前じゃない」
「そうだよね……。ごめん」
 シンゴはアスカを見ずに相槌を打つ。アスカは音のない溜め息をついて、ほうとうの入ったお椀に再度手を伸ばした。
 アスカがほうとうをすする音だけが部屋に響く。シンゴは何か言いたげだったが、それ以上は何も言わなかった。自分の言葉が嫉妬から出たものだという自覚があったからだ。けれど、嫉妬だけでそのように思ったわけでは決してなかった。アスカの仕事のことを話す目は――ヒサシのことを話す目は明らかにいつものアスカとは違っていたのだ。口説かれた話をシンゴにするか、しないか迷ったその目は、いけないことをしている子どものようにキラキラとし、まるで恋をしているように、シンゴには映っていた。

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