小説「サークル○サークル」01-73. 「動揺」

 シンゴとて、アスカに浮気をしてもらいたいわけなどではない。第一、アスカがヒサシのことを好きだったとしても、ヒサシにその気がないかもしれないではないか。アスカを誘ったのだって、ただ気の迷いや冗談かもしれない。けれど、それは自分がそう思いたいだけだと、シンゴにはわかっていた。そんな気休めはいらない。シンゴは必死で考えた。アスカが浮気に走らないように何をするべきか、それとも走らせて間違いに気付かせ、やめさせるべきか――。
 そこまで考えて、ふと自分を振り返った。浮気は良くないことだけれど、浮気をするにはそれなりの理由があるはずだ。その理由は紛れもなく、自分にあるのではないか、とシンゴは思った。うだつのあがらない夫である、という自覚は存分にある。アスカに養い続けてもらっているという後ろめたさもある。けれど、アスカを愛しているという気持ちだけは本物だ。その思いをアスカはわかっているのだろうか。いや、わかっていてもそれはあまり関係ないのかもしれない。相手が自分を愛しているかどうかが問題なのではなく、自分が相手を愛しているかどうかが問題なのだ。もしアスカがシンゴを愛していなければ、「浮気をしない」理由などないに等しい。結婚しているという、ある種の契約だけで、人の心まで縛れないということをシンゴは痛いほど知っていた。

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