「サシアイ」5話

「どうだ? 変わった味だろう?
 深い甘みがある半面、成熟過程での酸味もまったく失われていない」
「…………」
「プラティーヌは傷みやすい品種らしく、農薬も受け付けない。
 収穫できるようになるまでにはかなりの手間がかかるんだ。そいつをふんだんに使って蒸留した酒だからな。
 なかなか手に入らんのよ」
「確かに、面白いな。
 鼻に抜けるような芳醇さがあり、それでいて癖が無く飲みやすい……、まあ、うまいよ」
 いつもの穏やかな笑みを浮かべたつもりなのだろうが、槇村のそれは口角の筋肉を歪める程度に留まった。
 どうやら平素の自信をいささかなりとも傷つけられたようだな。
「それで? お前も酒を出せよ」
 俺はここぞとばかりに畳みかける。
 自然と声が大きくなっているのが分かった。
 応じて槇村が取り出したのは茶色の大瓶━底の部分で何かが“とぐろ”を巻いている。
「おいおい、ハブ酒かよ。
 まあ、意外ではあったけど、別段、珍しくはないぜ」
 奇を衒うとは槇村らしくもない━今日の勝利を確信し、俺は内心ほくそ笑んだ。
「そのハブをよく見てよ」
 そう促され、俺は酒に浸けられた瓶底のハブを凝視した。

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