小説「サークル○サークル」01-80. 「動揺」

 他愛ない会話が進んでいく。最近の天気予報が当たらないとか、日に日に寒さが増しているとか、見知らぬ誰かとでも交わせるような内容の話ばかりが続いていた。傍から見ていれば、和気藹々としているように見えるが、そんな状況にあってもアスカは物足りなさを感じてしまう。もっとヒサシのパーソナル部分が知りたい、もっと自分のことを知ってもらいたい、と彼女は思わずにいられなかった。けれど、そんなことは口が裂けても言えない。それは仕事としてヒサシに接触しているからなのか、それともただ単にヒサシに恋するあまり嫌われるのが怖くて言い出せないのか、アスカにもよくわかってはいなかったが、明らかにそういった感情は恋をしたから持つものだということを彼女は自覚していた。そんな自分に嫌気がさしたけれど、アスカはどうすることも出来ずにいた。
 そんな時だった。ヒサシから意外な言葉が飛んできた。
「そう言えば、ご結婚されているんですか?」
「えっ……」
 アスカは一瞬言葉に詰まる。
「どう見えますか?」
 咄嗟の判断にしては上出来な返しだ。まさか、ヒサシからそんな質問をされるなど微塵も思っていなかったアスカは、ヒサシの次の言葉にどう答えるべきか頭を悩ませていた。

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