小説「サークル○サークル」01-91. 「加速」

 加速していく思いはいつだって、自分ではどうすることも出来ない。それをアスカは今までのいくつもの経験から知っていた。恋はいつだって、恋する自分を振り回す。それに抗える程、アスカはまだ年老いてはいなかった。
 会えない時間もついヒサシのことを考えてしまう。まだヒサシの唇の感触を覚えている。自分にはシンゴがいるけれど、シンゴとはもう随分と恋人のような関係ではなくなっていた。だから、余計にヒサシとのことが頭から離れないのかもしれない。得も言われぬ背徳感にただただアスカは、翻弄されているだけだった。
 事務所の窓からは暖かな陽射しが差し込み、アスカは一瞬目を細める。机の上にいつものように足をあげ、煙草の煙をくゆらすと、天井を見上げた。しばらく経って、アスカは肺いっぱいに煙草の煙を吸い込んで、一息に吐き出した。自分のしている行動の意味の無さに沸々と可笑しさが込み上げてくる。
 アスカが吹き出しそうになった瞬間、ドアが開いた。
慌てて、アスカは机から足を下ろし、煙草を灰皿に押しつけると、姿勢を正して椅子ごとドアの方を向いた。
「ご無沙汰しております」
 そこに立っていたのは少し膨らんだお腹が印象的なマキコだった。

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