小説「サークル○サークル」01-94. 「加速」

「バレている気がするんです」
 マキコは俯きながら言った。アスカは眉間に皺が寄りそうになるのをぐっと堪えて、涼しい顔をして、それから尋ねた。
「バレている? それは、別れさせ屋に依頼したことが、という意味ですか?」
 アスカは問うと同時に今までの自分の行動を振り返っていた。確かに接触はしていたが、だからと言って、自分の正体がヒサシにバレているとは思えなかった。バレていたとしたら、あんなに大胆にヒサシはアスカのことを誘ってきたりしないはずだ。むしろ、距離を置くだろう。これはマキコの思い過ごしだとアスカは思った。
「依頼を取り下げて下さいとお願いしに来る前、実は……主人がやたらあなたの話をしていたんです」
「私の話を?」
 シンゴの言っていた通りの展開にアスカは少々面食らう。
「えぇ。行きつけのバーに同い年くらいの女の子が入ったって。頭の回転が速く、会話が楽しいって」
「そうですか……。でも、それがどうして私だと?」
「外見の特徴を聞いた時、あなただと確信しました」
 アスカはヒサシが自分の特徴をどんな風に伝えていたかを知りたかったが、それをマキコに訊くのはやめた。いらぬ誤解を与えてしまうのは、別れさせ屋の立場上、良くないことは明白だったからだ。

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