小説「サークル○サークル」01-100. 「加速」

「いつも、いらっしゃってますよね」
 青年は少し照れたように笑ってシンゴに言った。八重歯がちらりと見える。
「あぁ、そうかな……」
 そんなに頻繁に来ているわけではなかったが、青年がシフトに入ってる時にいつも来ていたのかもしれない。まじまじと顔を見たことがなかったシンゴだったが、この時ばかりは顔を上げて、青年の顔をしっかりと見た。少し長めの髪に奥二重の目、笑顔の度に零れる八重歯が印象的だった。
「間違ってたら、申し訳ないんですけど……。作家さんですよね?」
「えっ、どうしてそれを……」
 突然の言葉にシンゴは呆気に取られた。こんな時間にふらふらと一人でコンビニエンスストアに来ているからと言って、作家だとは限らない。最近は本だって出してないし、こんなに若い人に作家だと知られているわけがないと思った。
「実はオレの親父があなたの本が好きで、よく読んでたんです。本に写真が載ってたから、もしかしたらそうかなって……」
「ありがとう。でも、最近の僕は全く本を出してないから」
「でも、出ていないだけで書いてはいるんですよね? 刊行ペースは作家によってそれぞれだって、親父から聞いたことがあります」
「あの頃は……ハイペースだったからね」
「えぇ、次から次へと出るので、読むのが大変でした」
 青年は嬉しそうに話し続けた。

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