小説「サークル○サークル」01-101. 「加速」

「ホントはずっと前から声をかけたいなって思ってたんですけど、勇気がなくって。でも、今日は勇気を出して良かったです!」
 青年の嬉しそうな顔にシンゴは面食らっていた。自分の書いた作品がこんなにも人に喜ばれているのを初めて目の当たりにしたような気がしていた。大抵、作品の感想をくれるのは友人や家族くらいのもので、どうしたって、読者の声は著者には届きにくい。今はインターネットがあるから、ショップのレビューで自分の作品の評価を間接的に知ることは出来るけれど、こうやって、直接読者の一人から感想を聞くことは稀だった。
 軽快な音が電子レンジから聞こえた。弁当が温まったようだ。青年は手際良く、弁当を取り出して、手提げのビニール袋へと入れた。何も言わず、箸も一緒に入れてくれるのを見て、気が利くな、とシンゴは思った。
「大変お待たせ致しました。ぜひ、またいらっしゃって下さいね!」
 笑顔で青年に言われ、シンゴは「あぁ、はい」と言った。青年の勢いに押され、その程度の返事をするのが精いっぱいだったのだ。
「あっ! オレ、キトウ ユウキって言います!」
 突然、思い出したかのようにユウキは名乗ると、笑顔のままシンゴを見送った。

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