小説「サークル○サークル」01-102. 「加速」

 世の中にはいろんなタイプの人間がいるものだ、とシンゴは自分とは全く違うタイプの人間に出会うとよく思った。それはまるで異世界の住人よろしく、全くの別物に見えたのだ。同じ時代に生き、同じ言語を操るなどとは彼には到底思えなかった。
 シンゴは生まれてこの方、一度も髪を染めたことがない。染めたいと思ったこともなかったし、染める必要性も感じなかったからだ。どうして、多くの人間が折角の黒髪を茶色に染めたいのか、理由も気持ちもわからなかった。だから、「今時」と言われる自分より若い人たちを見ると不思議な気持ちになってしまう。勿論、シンゴが若い頃から、茶髪にするのは当たり前のことだったし、茶髪じゃない方が逆に目立った時代でもあった。そんな環境にいたので、シンゴにとって、茶髪の人間を見ることは然して珍しいことではなかったけれど、その違和感だけは大人になった今でも拭いきれなかった。
 ビニール袋に入った温かな弁当を提げながら、シンゴは元来た道を静かに戻る。それはいつもなんだかシンゴを寂しい気持ちにさせた。寂しさはシンゴに溜め息をつかせ、行き場のない気持ちを心の片隅に増殖させていった。シンゴは同じことを繰り返す日々にもういい加減、嫌気がさし始めていた。

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