小説「サークル○サークル」01-104. 「加速」

「あぁ、君は……」
「覚えててくれたんですね。コンビニではいつもありかどうございます。この間はお話出来て嬉しかったです。隣、いいですか?」
 ユウキに言われて、シンゴは「あぁ」と言い、少し左端に寄った。
 ユウキは遠慮がちにベンチに腰をかけると、シンゴの方を向いた。
「いつもこんな風に公園で小説の構想を練っているんですか?」
 ユウキに問われて、シンゴは口籠る。ただぼーっとしていただけだったが、それを口にしてしまうのは憚れた。なんだか読者の夢を壊してしまうような気がして、申し訳ないような気分になったのだ。
「たまにね、こうやって、外の空気でも吸おうかな、と思うことがあるんだ」
 シンゴはあたかも仕事のことを考えていたというような体で話し出す。折角の、数少ない読者の為についた嘘だった。
「やっぱり、すごいですね。モノを書くなんて、オレには到底無理ですよ。小学校の読書感想文で精いっぱいです」
「すごくはないよ。日本人なら誰でも日本語で文章が書ける」
 自分の仕事のことを話すと、必ずと言っていいほど、読書感想文を引き合いに出されることが多かった。読書感想文が上手いからと言って、小説が書けるわけではなかったし、小説が書けるからと言って、読書感想文が上手いわけでもない。その証拠にシンゴは読書感想文で賞をもらったことなど一度もなかった。

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