小説「サークル○サークル」01-113. 「加速」

「やけに機嫌がいいわね」
 アスカはいつもよりどことなく、浮かれ気味の夫を目の前にして、訝しげに言った。
「そんなことないよ」
 シンゴはそう言いながらも、自分の頬がにやつくのを感じていた。
「そう……」
 アスカはシンゴが何かを隠していると思ったけれど、それ以上は追及しなかった。シンゴに限って、浮気なんて芸当は出来ないだろうし、きっとシンゴが喜ぶことなのだから、些細なことだろうと思ったのだ。
 シンゴはアスカが追及してこないことに少しの物足りなさを感じたが、その反面、ほっとしていた。本当ならば、すぐにでも仕事の依頼が来たことをアスカに伝えたかったけれど、依頼が来ただけであって、その仕事が確定したわけではない。依頼があっても仕事の依頼が流れてしまうことがあるのも、この世界では珍しいことではなかった。流れてしまえば、ぬか喜びさせてしまうことになる。それはアスカにとっても、シンゴにとっても、良いことだとは思えなかった。シンゴは仕事が確定したら、アスカに報告しようと決めていた。

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