小説「サークル○サークル」01-114. 「加速」

 シンゴは浮かれながらも、アスカの様子をしっかりと観察していた。今日のアスカは特に浮き沈みはないように感じられた。帰ってきた時間を考えても、きっとターゲットと食事に行ったり、それ以上の関係を持ったりはしていないだろう。そう思って、胸を撫で下ろした。
 シンゴにとって、女性はアスカだけであり、離婚なんてことになったら、精神的にも経済的にも困窮することは目に見えていた。何があっても、離婚は避けたい。困窮したくないのは勿論のことだが、離婚したくないのには他にも理由があった。
 離婚をすれば、心も身体もボロボロになってしまう。まるで、使い古された雑巾のようにだ。あの何とも言えない心の奥底のもやもやとした感情は、失恋なんか足元にも及ばない程の破壊力を持っていた。そんな思いを味わうのは一度だけで十分だった。仕事柄、どんなことを経験しても無駄にはならない。経験が作品に繋がっていくし、経験したことを書けば、作品にリアリティが出てくる。だが、作家と言えど、人間だ。経験したくないことだってある。それがシンゴにとっての離婚だった。

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