小説「サークル○サークル」01-119. 「加速」

 翌日、シンゴは小説を書く為にパソコンを開いた。まだ何を書いていいのかもわからない。書きたいこともない。ただ何もしないわけにはいかなかった。書けないなりに努力は必要だとも思った。ふいにシンゴは外付けHDDの一つのフォルダに目を止めた。「新しいフォルダ」と書かれているそれに見覚えがなかった。ダブルクリックをし、中身を表示させると、一つのワードファイルが入っていた。不思議に思って開けてみると、たった一文だけ、こう書かれていた。
『僕の奥さんは別れさせ屋で働いている――』
 アスカが今回の仕事を始めて、様子がおかしくなった当初に書こうとした小説だった。
 ユウキに話した話はあながち嘘ではなく、自分が書こうとしていたのを忘れているだけだったのだ。シンゴはなんだか嬉しくなった。数週間前の自分に思わず「でかした!」と言いたくもなった。
 深呼吸をして、気持ちを落ち着けると、シンゴはパソコンに向かって、続きを書き始めた。

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