小説「サークル○サークル」01-121. 「加速」

 時計を見ると、そろそろバーに向かわなければならない時間だった。憂鬱な気持ちのまま、アスカは身支度を整える。今日はラストまでいる日だった。事前にシンゴには食事はいらないと言って出てきている。帰ってから食べることも考えはしたが、夜中に食事をして、そのまま眠ってしまうのは太る為の儀式でしかない。体型維持の為にも休憩中に軽くすませるつもりでいた。

 バーには人がまばらにいるだけだった。時間も深まっていき、日付が変わろうとしていた。今日はまだヒサシが来ていない。この時間になっても来ないということは、今日はもう来ないのだろう。そう思って、諦めていた時にドアが開いた。期待に胸を膨らませて、ドアを見ると、少し疲れた顔をしたヒサシが入ってくるところだった。眼鏡の奥の瞳は床を見つめている。ヒサシがふと顔を上げるのと同時にアスカはヒサシと目が合った。
 ヒサシは疲れを感じさせないように笑顔をアスカに向ける。それだけで、アスカの胸は高鳴った。これが恋でなければ、なんだというのだろう。アスカはカウンターに近づいて来るヒサシにとびきりの笑顔を向けていた。

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