小説「サークル○サークル」01-130. 「加速」

 シンゴはアスカにもヒサシにも気が付かれないように、自転車に乗ると、大急ぎで家へと戻った。
 近道を最大限に活かして自転車を飛ばした。
 アスカが駅まで歩く時間とタクシーで通れる道から導き出した時間を考慮すると、どうにかシンゴの方が早く家に着ける程度だった。
 北風が吹く寒い夜なのに、帰ってきたら汗だくになっていたけれど、仕方がない。
 こうでもしなければ、アスカの後をつけることは出来ないのだ。
 シンゴがアスカを尾行しているのには、きちんとした理由があった。
 小説を書く為だ。
 小説を完成させる為にアスカがどんな風に仕事をしているのかを知りたかったのだ。しかし、無論、理由はそれだけではない。
 アスカの素行が知りたかったのだ。尾行するなんて、お世辞にも褒められることではないことはシンゴだってわかっている。けれど、そこまでさせる程、シンゴは追い詰められていた。
 アスカが浮気をするのではないか、と思う度にいつも憂鬱な気持ちがシンゴにのしかかっていた。その結果として、もやもやとする気持ちはお腹の底に滞留した。けれど、それをアスカにぶつけることは出来ない。かと言って、他の誰かに言うことも出来ない。
 もやもやは溜まる一方で、出口を見つけられずに、シンゴは随分と苦しんだ。苦しんだ結果の尾行だった。

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