小説「サークル○サークル」01-133. 「加速」

「どうしたのよ。急に」
「いや、不甲斐ない夫だったなって思って」
「そんなことないわ、って言ってあげたいけど、それは言えてるわね。でも、いいじゃない、また小説を書くことになったんだから」
「もうこれからは心配かけないから」
「大丈夫よ。最初から心配なんてしてないから。ただ困った夫だな、って思ってただけよ」
 歯に衣着せぬアスカの言葉にシンゴはぐさりぐさりと心を刺されるような思いがしたが、自分の蒔いた種なので仕方がない。
「でも……いつも家事を一生懸命やってくれて、とても感謝してるわ。あなたも仕事が忙しくなるだろうし、昔みたいに分担しましょう」
「えっ……」
「何か不満?」
 意外なアスカの申し出にシンゴは間の抜けた声を出す。アスカの愛情がヒサシに向かいつつあると思っていただけに、予想外だった。
「ありがとう。そうしてもらえると、僕も助かるよ」
「でも、料理はお願い。私より、あなたが作った方が何倍も美味しいわ」
「わかったよ。今まで通り、夕飯作って待ってるから」
「ありがとう」
 シンゴは夫婦らしい会話をしている自分たちにホッとしていた。
 これでこそ、夫婦だ。
 そう強く思った。
 きっと夫婦らしい会話が消えていったのは、いつまでも腐って、小説を書こうとしなかった自分に原因があると思った。ここから、どうやって、巻き返していくかが肝心だ。ヒサシにアスカを取られたくない。シンゴはより一層、そう強く思った。

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