小説「サークル○サークル」01-150. 「加速」

 アスカは自分の心が乱れてしまわないように、仕事に集中する。しかし、やはり、ヒサシと女のやりとりが気になった。それは、仕事ではなく、明らかにアスカの私情から来るものだった。
 アスカがちらちらと気にしているのがわかったのだろう。ヒサシがアスカの方に何の前触れもなく、視線を向けた。互いの視線がぶつかり、アスカは気まずさのあまり目を伏せた。これではまるでヒサシに気があります、と言っているようなものだとアスカは罰が悪くなる。
 やがて、ヒサシは女を連れて、店を出て行った。アスカはほっと胸を撫で下ろす。あのまま、二人を視界の端に捉え続けることはアスカには耐え難かったのだ。
 アスカはテーブルを片付けようとして、あることに気が付いた。徐にヒサシの前にあったコースターに手を伸ばす。
 きっと女がお手洗いに立った時に書いたのだろう。コースターには電話番号とヒサシの名前が書いてあった。電話をしてくれ、というメッセージであることは一目瞭然だった。

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