小説「サークル○サークル」01-155. 「加速」

 きちんと作家として、仕事をし、収入を得た上で考え直してほしいと言わなければ、なんの説得力もないだろう。だが、今ここで思い止まらせなければ、アスカはどんどんどつぼにハマっていくかもしれない。
 それにアスカが異様に優しいことも不安材料の一つだった。アスカが自分から夕飯を作ると言い出したのだ。一緒に暮らしてきて今まで一度だったそんなことはなかった。勿論、シンゴが作家としての仕事をしていなかったから、というのは大いに理由としてはあるだろう。しかし、たかが少し仕事を始めたくらいで、手のひらを返したように態度が変わるものだろうか。
 アスカが急に優しくなったのは、きっとやましいことがあるからだ。シンゴはそう思った。思ったけれど、まさかそんなことを口にするわけにもいかない。
 アスカが夕飯を作ってくれることは、アスカの浮気さえ疑っていなければ、嬉しいことなのだ。
 一体、どうすればいいんだ……。
 シンゴは何度も同じ言葉を心の中で繰り返した。繰り返しても繰り返しても一向に答えは見当たらない。現実は小説よりもよっぽど残酷だ、と感じるのはこんな時だった。

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