小説「サークル○サークル」01-178. 「加速」

 シンゴが目を覚ますと、夕飯の匂いが鼻先をついた。目を開け、光を感じると、視界が開ける。ぼんやりする頭のまま、キッチンに目をやると、そこには髪を束ね、エプロンをしているアスカの姿があった。
「ごめん……。寝ちゃってたみたいだ」
 シンゴはソファからアスカに声をかける。
「いいのよ。疲れていたんでしょう?」
 アスカは微笑む。その笑顔にシンゴはじんわりと込み上がる幸せを感じていた。
「仕事は終わったの?」
「ええ。ちゃんとジムにも入会して来たわ」
「じゃあ、あとは、レナと接触すればOKってこと?」
「そうなるわね」
 アスカは調理中の料理から視線を外さずに、シンゴに答える。
「レナと接触して、ターゲットと別れさせたら、今回の仕事はやっと終わるわ」
 その一言に、シンゴはドキリとした。この仕事が終わったら、アスカはどうするつもりなのだろう、と思ったのだ。アスカはシンゴを捨て、ターゲットと付き合うつもりだろうか。それとも、ダブル不倫をやってのけるつもりだろうか。
 仕事が終われば、これっきりとなればいいけれど、そんな生易しい現実が待っているとはシンゴには到底思えなかった。

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