小説「サークル○サークル」01-310. 「加速」

シンゴはテレビの電源をリモコンで切ると、飲み終えたコップをシンクに置く。水道の蛇口をひねり、置いたコップに水を注いだ。牛乳は時間が経つと、白く残って、落ちにくくなる。そのまま、洗ってしまえば良いのだが、なんだか今は洗い物をする気にはなれなかった。
冷蔵庫にあったアイスコーヒーを別のグラスに注ぐと、それを持って書斎へと向かう。
書斎の電気を点け、椅子にどっかりと腰を下ろすと、パソコンの電源を入れた。パソコンを立ち上げている最中、シンゴは自分の書くべきことを頭の中で整理する。
小説を書くにあたって、難しいことは何もない。自分の経験したこと、見たことを言葉に置き換えれば済む話だ。勿論、そこには自分のフィルターを通した感情やモノの見方などが反映される。実話を元にはしているけれど、実話だけをたらたらと書き綴ったところで小説にはならない。そこにはいくつかのエッセンスが必要だった。
シンゴは立ち上がったパソコンから書き途中のデータを開くと、キーを打ち始めた。
もうすぐ小説が書き終わる。
アスカの仕事がここで終われば、の話だけれど。

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