小説「サークル○サークル」01-336. 「加速」

「結婚を楽しいものだけだとでも思ったの?」
アスカはモヒートを飲みながら、ヒサシに視線を向ける。ヒサシはアスカの視線を受け止め、自嘲した。
「そんなこと思うわけないじゃないか。結婚が墓場だなんて、よく聞く話だろう?」
「じゃあ、どうして、そんな不平不満を?」
「結婚なんて、バカげた選択をしてしまった自分に対しての愚痴みたいなものだよ」
ヒサシは言いながら、溜め息をついた。
きっと少し前までのアスカなら、ヒサシと似たような溜め息をついていただろう。けれど、今のアスカがシンゴの存在を疎ましく思うことはなかった。それどころか、シンゴのことをそんな風に思ってしまっていたことに申し訳なさすら感じていた。
「結婚に対して、不平不満を言うのは、筋違いだってことくらいわかってるよ。全て、自分の選択の上に今の自分は成り立っているんだからね。だけど、愚痴を言わずにはいられない。まぁ……独身の君にはわからないだろうけど」
ヒサシは言いながら、左手の薬指に光る指輪に視線を落とした。

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