小説「サークル○サークル」01-346. 「加速」

アスカはホットミルクにはちみつを入れると、スプーンで何度かくるくるとかき混ぜた。使い終わったスプーンをシンクに置くと、シンゴの座っているソファへ溜め息をつきながら腰を下ろした。
「随分、疲れてるみたいだね」
シンゴはアスカの顔をちらりと見て言う。
二人の目の前にあるテレビは電源が切られており、真っ暗な画面が二人の姿をぼんやりと写していた。
アスカはそんな二人のぼんやりとした姿を見ながら、「うん」とだけ答える。喉の奥に言葉が引っかかって出てこない気がした。
「仕事、上手くいかなかったの?」
「……」
なんだか自分のことを見通されている気がして、アスカは黙ったまま、カップに口をつけた。
はちみつ入りのホットミルクの甘い味が口の中に広がってはゆっくりと消えていく。アスカは何も言わずにもう一口、ホットミルクを飲んだ。
無言の時間が続いていた。
シンゴもアスカが何も言わないことが答えだと思い、それ以上は何も言わなかった。
黙って隣にいるだけ良い時があるということをシンゴは知っていた。

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