小説「サークル○サークル」01-420. 「加速」

不意にマキコの視線がアスカたちの方へと向いた。そして、あっという間にマキコの顔色が変わる――と思った。けれど、マキコは表情一つ変えることなく、再び、不倫相手の方を向き、笑顔を振りまいている。
ヒサシよりマキコの方が何枚も上手だ。アスカはさっきよりも気の毒に思いながら、ヒサシを見た。
ヒサシはアスカをじっと見る。もしかしたら、依頼者がマキコだとバレてしまったのかもしれない。緊張が走った。
「浮気って、されるとこんなにも心が痛いものなんですね」
ヒサシはその一言を言い残し、行ってしまった。

「あれは別れる、と捉えていいんでしょうか……?」
ヒサシが喫茶店を出て行った後、遠慮がちにレナは言った。
「いいんじゃないかしら。不倫される側の気持ちが漸くわかったのよ」
アスカは不安そうにしているレナににっこりと微笑む。
「これでやっと終わりか……」
ユウキは大きな溜め息をついて、天井を仰いだ。
「でも、さっきのは……」
「ああ、あれは奥さんが不倫相手とそこにいたから……」
「やっぱり……」
レナとユウキの口からは同じ言葉が同じタイミングで零れた。

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