小説「サークル○サークル」01-10. 「依頼」

アスカはシンゴの気配に気が付いて、顔をあげる。
「そう言えば、調子はどう?」
 アスカは食事をしていた手を止めて、シンゴに問うた。
「まぁまぁってところかな。アイデアは浮かぶんだけど……。結末が思いつけなくて」
 苦笑するシンゴを見て、へらへらして言うことじゃないだろう、とアスカは思ったが、口には出さなかった。そんなことを言ったところで、この男の性格が改善されるわけではないことを、彼女はよく知っていた。
「結末が思いつかないんじゃあ、どうしようもないわね」
「そうなんだよ。結末が決まってないと、プロットは出せないからね。プロットがなければ、小説を書きだすことは出来ないし……」
 小説の骨組みとなるプロットは、物語の始まりから終わりまでを端的に書いたものだ。これがなければ大抵の場合、編集者に小説の執筆に入らせてもらえないことが多い。結末が浮かばないシンゴにはこの最初の段階であるプロットすら書けないということだ。それは仕事が全然進んでいないことを意味する。アスカは溜め息をぐっと飲み込み、続けた。
「結末は浮かびそうなの?」
「あとちょっとってところかな」
「それ、1か月前も言ってなかった?」
「あぁ、あの時の小説は結局ボツにしたよ。あれは今思うと全く面白くなかったからね」
シンゴは悪びれる風もなく、いけしゃあしゃあと言い放った。

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