小説「サークル○サークル」01-51. 「動揺」
- 2012年02月13日
- 小説「サークル○サークル」
- サークル○サークル
アスカが風呂からあがってくると、すでに夕飯の準備は万全だった。テーブルには所狭しと料理が並べられ、冷えたグラスも用意されている。
「今日は飲むでしょ?」
シンゴはテーブルの真ん中にパエリアを置きながら、アスカをちらりと見て言った。
「そうね……。たまには」
アスカは答えると、濡れた髪を拭きながら、席へと着く。そのまま、プラスチック製のヘアアクセサリーで髪をアップにすると、バスタオルを隣の椅子にかけた。アスカの前でシンゴは忙しなく、キッチンとテーブルを行ったり来たりしている。
「今日はパエリアに初挑戦したんだよ」
シンゴは缶ビールを2本持ってくると、嬉しそうにパエリアを指差した。
「おいしそうね」
「うん! 自信作だよ」
シンゴが缶ビールのプルトップを引き上げると、小気味良い音を立てて、缶ビールが開いた。アスカの持つ冷えたグラスにシンゴは要領良くビールを注ぐ。シンゴはアスカのグラスに注ぎ終わると、自分のグラスを反対側の手に持ち、ビールを注いだ。昔なら、アスカはシンゴの分を注いでくれた。けれど、今はそれすらもしてくれない。愛情が冷めきっている証拠だとシンゴは悲しくなった。けれど、ここで不満そうな顔をすれば、それだけでケンカの原因になることもわかっている。擦れ違いが重なり、関係が冷え始めた夫婦は常に一触即発の危険に晒されている。シンゴは楽しい夕飯の時間を死守する為に、平常心と作り笑顔に努めた。
コメントを残す