小説「サークル○サークル」01-56. 「動揺」

「成り立つんじゃない?」
 アスカはムール貝を口に運びながら言った。いつも思うことだが、やはりこの味を好きになれない。それでも、なぜか毎回チャレンジしてしまう自分に半ば呆れていた。
「じゃあ、君は友情関係の成立した男友達を持っているんだね?」
 言われて、アスカはしばし考え込む。何人か男友達の顔が浮かんだが、果たして、本当にそこには友情しかなく、恋愛感情は皆無だと言い切れるのだろうか。強く迫られたら、恋に落ちてしまいそうな友達が二人いることに気が付いた。けれど、それ以外は全員恋愛対象外だ。しかし、相手の男友達に自分に対する恋愛感情が皆無だと言い切れるだろうか。心の中のことは、本人にしかわからない。
「そうね。だいたいは、成り立つんじゃないかしら」
「ということは、成り立たない関係性でありながら、友達関係を続けている、ということだね」
「そういうことになるわね。そういうシンゴはどうなのよ」
「僕? 僕は成り立たないと思っているよ。だから、女性と二人きりで食事を行くなんて、浅はかな真似はしない。編集担当者は別だけどね」
 シンゴの言葉にアスカは黙るしかなかった。

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