「サシアイ」2話
実際、槇村の酒に関する造詣の深さは、俺も一目置かざるを得ない。
しかも、細面で、鼻梁が高く、なかなかの美男といえる。イケメンの解説は、不思議と説得力が増すものだ。
まあ、俺にとっては、槇村の解説を不快にする要素のひとつでしかないが……。
「それに現代人の感覚では、米も水も運搬に差異は感じないけど━いや、むしろ水道の発達で水の方が気安いかな。
日本酒の蔵元は江戸時代から続く老舗がほとんどだよ。その当時、大量の水を確保する事がどれほど大変だったか分かるでしょ?
君の考えは、原材料の熟成に重きを置いた洋酒や果実酒になら当てはまるかもしれないが、こと日本酒に関しては━」
これ以上、槇村に意見されるのはプライドが許さなかった。槇村の言葉尻を潰し、俺はいささか声を荒らげた。
「そんな事は常識の範疇だ! それじゃあ進歩がないだろうが!
本当の酒好きだったら、自力で新しい蔵元の、新しい酒を見つけ出す喜びを知れって話だ!」
「ふっ、そんな話をしてたっけ?」
興奮する俺の様を鼻で笑い、さらに酒をあおる槇村━そのまま杯を伏せた。どうやら、今日の試飲会はここまでのようだ。