小説「サークル○サークル」01-363. 「加速」

「飲まなきゃやってられないわ」
 アスカはそう言うと、まるで水でも飲むかのように勢いよく、赤ワインを喉に流し込む。
「そんな飲み方したら、すぐ酔っちゃうよ」
「いいのよ、酔いたい気分なんだもの」
「これから、どうするの?」
 シンゴはほんの少し、グラスに口をつけて言った。視線の先にはふくれっ面のアスカがいた。
「どうするも何も……。ターゲットとレナは別れさせるわよ」
「それが君の仕事だもんね。でも、ターゲットにはバレているんだろう?」
「そう。そうなのよ。でも、話し合えばどうにかなるかな……」
「ホントに?」
「ホント。他にも浮気相手がいるっていうことは、依頼者に言わないからっていう交換条件で別れてもらうつもり」
「それをターゲットが飲むと思う?」
「飲ませるのよ。私がちゃーんと報酬をもらえるようにする為にはそれしかないもの。それに第一、別の浮気相手がいることを依頼者に告げなきゃいけいない義務はないわ」
「なるほどね」
 シンゴが二口目を飲むころには、アスカのグラスは空になっていた。

小説「サークル○サークル」01-362. 「加速」

「でも、それだけ? たったそれだけの為に私に依頼するかしら?」
「すると思うよ。お金もかけずに、旦那の浮気の決定的な証拠を集められるし、一石二鳥だと思わない?」
「旦那の不貞行為が原因で離婚。そして、不倫相手と再婚して、子どもを産む……」
「そういうこと。依頼者は慰謝料もらい、新しい幸せも手に入れることが出来る」
「怖い女……」
「でも、今、君が相対しているのは、そういう人なんだよ」
「手強そうね……」
「そうだね。とても不利な状況に置かれていると思うよ」
 アスカはシンゴの言葉に何も言わずに立ち上がると、キッチンへと向かう。シンゴはそんなアスカの姿を何も言わずにじっと見ていた。
 アスカは食器棚から二つワイングラスを取り出すと、冷蔵庫で冷やしていた赤ワインを注いだ。
 無言のまま、アスカは赤ワインの注がれたワイングラスを持って、シンゴのところへ戻ってきた。
「はい、シンゴも飲むでしょ」
「ああ、ありがとう」
 シンゴは笑いながら、アスカからワイングラスを受け取った。


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