「サシアイ」8話
「あははは、やっぱりな、ははははは!」
クールな槇村が懸命に値段交渉する様子を想像し、俺は思わず吹き出してしまった。
「何が可笑しいんだよ、お前、大丈夫か?」
「ははは、大丈夫さ! むしろ爽快だぜ!」
「お前、まさか……」
「ん?
いやいや誤解だ! 一口も飲んでないって!」
講義をさぼって昼間から酒を飲んでいやがった、そんな悪い噂━まあ、ほとんど真実なんだが━を触れ回られてたまらない。俺は込み上げる笑いを奥歯で噛み殺した。
「とにかく大学に来いよ。一応、みんな心配してるんだからな」
「分かった、分かった、ありがとな」
あの槇村がそこまで追い詰められているのだ。先に降りられるものか。
しかし、自ら志望し、親に仕送りを強いてまで通わせてもらっている大学だ。
この不景気、酒屋の上がりなど知れている。これで留年となれば、親がどれだけ落胆するか。さすがにそれは辛い。
俺は酒を探索する忙しさにプラスして、最低限の講義に出席せざるを得なくなった。
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