「サシアイ」9話

 大学の講義と酒探し━睡眠時間すら削られる状況だったが、俺も槇村も例の試飲会を止める事はなかった。
「これは知ってる?
 “雄蛾酒”っていう中国の薬酒だ。雄の蛾の胴体部分を浸けたものさ。強烈でしょ?」
「そんなのは常識の範疇だな。
 中国ならこっちの方が凄いぜ━ガマガエルの脂肪を浸け込んだ酒だ」
「悪くないけど、稀少ってほどではないかな。
 これは“虎骨酒”━トラの骨を酒に浸けて、その強さを得ようというシャーマニズム的な意味合いから生まれた珍品さ」
「それも常識━。
 こいつはこっそり紹介するが……、様々な動物の睾丸を浸けた違う事な強壮酒だぜ」
 より珍しいもの、相手が入手していなさそうなものを追い求めるうち、試飲会に用意される酒は、どこか奇を衒った、アンダーグラウンドな珍品が多くなった。結果、二人とも一口も飲まずに終了する日さえあった。
 それでも、槇村がすでに所有済みの酒を紹介するのは屈辱的だったのだ。恐らくは槇村もそうなのだろう。
 試飲会に持ち寄られる酒のラインナップは、徐々に珍妙さの度合いを増していった。

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