小説「サークル○サークル」01-204. 「加速」

 シンゴは菓子パンを食べていた手を止めて、ユウキを見た。
「まだそうなると決まったわけじゃない」
「えっ?」
「不倫相手の男が彼女を取るとは限らないだろう」
「そんな……! じゃあ、彼女は子どもを堕ろすってことですか!?」
 血相を変えて言うユウキにシンゴは一瞬ひるむ。しかし、平静を装って、ユウキの目をじっと見た。
「よくあることだよ。不倫の大半は男の火遊びだ。男が本気になるのは珍しいと思うよ」
「……」
「君は彼女がその男と結婚してもいいの? 彼女のこと、好きなんでしょう?」
「そうなんですけど……」
 ユウキの返事はいまいち歯切れが悪い。シンゴは不思議に思って、首を傾げた。
「子どもを堕ろすことは褒められたことではないと思うけど、彼女が不倫をやめる、いいきっかけになると思うよ」
「……ですよね……」
 シンゴの言葉にユウキは思い詰めた表情で相槌を打つ。
 ユウキは思い詰めた表情のまま、地面を見つめていた。話し出す様子もなければ、おにぎりを食べ始める気配もない。シンゴは仕方なく、菓子パンにかぶりついた。

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