小説「サークル○サークル」01-304. 「加速」

アスカが「チェックを――」と言いかけたのをヒサシが制する。
「今日は俺がご馳走するよ」
「それじゃあ、遠慮なく」
アスカはそう言って、立ち上がる。
「そうそう、コートはバーのマスターに預けてもらえればいいから」
「ああ、わかった。一週間後には受け取ってもらえるようにしておくよ」
「よろしくね」
アスカはにっこり微笑むと、ヒサシに背を向け、歩き出した。
ドアに向かって歩くアスカのヒールの音が雑音に消えていく。
アスカはドアの取っ手に手をかけた。

シンゴは少し離れた席でアスカとヒサシの会話を全て聞いていた。
“君は一度だって、俺の誘いには乗ってくれなかった”とヒサシはアスカに向かって言っていた。ということは、以前、シンゴが尾行し、ヒサシと一緒にラブホテルに消えていったのは、アスカではないということになる。だったら、あれは一体誰だったのだろう。シンゴは数分のうちにいろんな可能性を探った。そして、アスカの“コートをそろそろ返してもらおうと思って”という言葉で真相に気が付いた。シンゴがアスカだと思っていたあの女性は、アスカのコートを着た別の誰かだったということだ。

Facebook にシェア
GREE にシェア
このエントリーをはてなブックマークに追加
[`evernote` not found]
[`yahoo` not found]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


dummy dummy dummy