小説「サークル○サークル」01-317. 「加速」

 アスカはケータイを握りしめたまま、溜め息をついた。
 やっかいなことになった。
 ヒサシが別れさせ屋の自分に気が付いた、ということは、マキコには失敗したことが筒抜けになっているかもしれないし、レナは自分の正体を知ってしまっているかもしれない。
 レナからの電話があった直後、ヒサシから電話があるなんて、あまりにもタイムリー過ぎる。もしくは、何か交換条件をつきつけてくるか――。
 アスカはレナとの待ち合わせに行きたくない、と思ったが、そうも言っていられない。待ち合わせの時間は迫っていた。もう一度、深い溜め息をつくと、アスカはレナとの待ち合わせ場所に向かった。

 アスカが慌ただしく出ていってから、シンゴは再び書斎に戻った。今の自分がしなければならないことは、小説を書くことだ。
 この小説をきちんと出版して、再び、作家としての自分を取り戻す必要があった。世間は自分が消えたと思っているかもしれない。けれど、もう一度本を出せば、消えたわけではない、ということを明示することが出来るだろう。
 シンゴはひたすらパソコンに向かった。
 アスカが浮気をしていない、とわかったことで、心のもやが晴れたのだろうか。今まで以上に原稿は進んだ。

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