小説「サークル○サークル」01-318. 「加速」

 アスカはドキドキしながら、レナを待っていた。こんな嫌な緊張をするのは久々だった。この仕事も長くなり、どこかあぐらをかいてしまっていたのかもしれない。
 アスカは帰宅する人たちでごった返す駅の改札前で腕時計に視線を落とした。レナとの待ち合わせまで、あと十分もある。あと十分間もこの緊張感を持ったまま、ここに立ち続けているのかと思うと溜め息が出た。
 駅のホームに向かう為、改札を通って行く人たちを見ながら、なんだか羨ましかった。これから二つも仕事をこなさなければならないのだ。アスカはもう一度溜め息をつく。嫌なことから逃げたいという気持ちの溜め息というよりは、自分の気持ちを落ち着かせる為の溜め息のようにも感じられた。
「すみません。お待たせしてしまって」
 前から小走りで近づいて来たレナは、アスカの前に着くなり、申し訳なさそうに言った。
「さっき来たばかりだから、大丈夫よ」
 実際、本来の待ち合わせ時間にはまだなっていなかった。
「行きましょうか」
 アスカはレナに言うと、歩き出した。

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