小説「サークル○サークル」01-286. 「加速」

「今日は行きつけの和食屋さんなんてどうかなって思うんだけど、そこでいいかしら?」
「はい! 最近、和食好きなんで、嬉しいです!」
 レナは笑顔でアスカの質問に答える。こんなにも素直な笑顔を向けるレナを見ていると、ヒサシのことが許せない気持ちになるから不思議だ。明らかに良心のある大人のすることではないな、とヒサシの行動を思った。
 不倫は男女ともに非がある。けれど、レナはまだ若く、恋に恋する年頃だ。そんな女の子相手に大人がちょっかいを出していいわけがないのだ。
 今日、レナにヒサシとの別れを決意させる。それがアスカのやるべきことだった。依頼の期限を考えても、今日は絶対に失敗が出来ない。アスカは歩きながら、話の持って行き方をもう一度反芻していた。
「あの……アスカさん」
「何?」
「いえ……何でもないです」
 レナは何かを言おうとしてやめた。アスカは気になったが、敢えて、深くは訊かなかった。話す必要があることなら、レナが自分で話すだろう。

小説「サークル○サークル」01-285. 「加速」

 ユウキを連れて来たのは間違いだったな、とシンゴは内心毒づいた。けれど、こうなってしまっては、後の祭りだ。
 シンゴは気持ちを入れ替えて、ユウキの肩にぽんっと手を置いた。
「今日は付き合わない方がいいと思うよ」
「いえ、付き合います!」
「僕は一人で大丈夫だし、好きな女の子を尾行するなんて良くないだろう。もし、彼女の不倫相手が出て来たら、どうするんだ? 感情的になって、彼女たちの前に出て行ったら、関係がぐちゃぐちゃになるだけだろう」
 シンゴは暗に帰れと言っているのだが、ユウキにはその本意は届かなかったようだ。
「いえ、俺なら大丈夫です。冷静に対処しますから!」
 ユウキは自信を持ってそう言った。シンゴは「でも……」と言いかけてやめた。ユウキの目があまりに真剣そのものだったからだ。
「わかった。くれぐれも無茶なことはしないようにね」
「はい!」
「どうやら、移動するみたいだね」
 シンゴは動き出したアスカとレナの尾行を始めた。


dummy dummy dummy