小説「サークル○サークル」01-66. 「動揺」
- 2012年03月14日
- 小説「サークル○サークル」
「お相手の方に申し訳ないです」
遠慮がちに、だがしっかりとアスカは言った。
「君なら、きっとそう言うと思ったよ」
ヒサシは余裕の笑みを浮かべながら、アスカを見遣る。
「仕方ないね、今夜は彼女の相手をすることにするよ」
ヒサシはいけしゃあしゃあと言い放つと、アスカに微笑んだ。そこへタイミング良く、女が戻ってくる。アスカはお辞儀をすると、カウンターの奥へと向かった。
アスカは濡れたグラスを手に取り、一つ一つ丁寧に拭いていく。グラスを持つ手に思わず力が入った。あのセリフはなんなんだ――アスカはヒサシの態度にイライラせずにはいられなかった。「仕方ないね、今夜は彼女の相手をするとこにするよ」とはあまりにも上から目線の発言ではないか。毎晩連れてきている女に自分は興味がないけれど、自分に好意を持ってくれるからここへ連れて来て、ベッドを共にするというのだろうか。ヒサシは自分がモテることを知っている男だと思う。けれど、あの発言はどうしたって、許しがたい。そして、アスカははっと我に返る。どうして、そこまで相手の女の立場で考えてしまっているのだろうか、と。
それは紛れもなく、アスカの意思に反して、アスカが次第にその女の立場に近付いている証拠だった。