小説「サークル○サークル」01-129. 「加速」

「そういうわけじゃ……」
「いい加減、素直になれよ」
 そう言うと、ヒサシはアスカを抱き寄せた。突然の出来事にアスカは一瞬呼吸をするのを忘れた。
「……ずっとこうしたかった」
 アスカはヒサシの言葉に胸の奥はぎゅっと鷲づかみにされたような錯覚に陥る。こんなセリフ、随分と聞いていない。少なくとも、シンゴはこんなことを言ってくれたことなどなかった。
「今日は一緒にいてくれるよね?」
 ヒサシの言葉に頷こうとしたけれど、あと一歩のところでアスカは思い止まった。相手ターゲットだ。ここでアスカがヒサシと一晩を共にしてしまったら、契約不履行だ。
「それは出来ません」
「旦那に後ろめたいから?」
「……はい」
 そういうわけじゃない、と思ったものの、それは口には出さなかった。
 アスカはヒサシの腕から逃れると、ヒサシの方を一度も見ずにその場を去った。
――そして、その一部始終を見ている人影が一つ。
 そっと胸を撫で下ろしていたのは、二人のやりとりをずっと見ていたシンゴだった。


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