小説「サークル○サークル」01-406. 「加速」

ヒサシの言葉には一理あるな、とアスカは思った。本人が不幸せを感じる時は、“不倫を知ってしまった時”だ。知らなければ確かになかったことと同じだろう。けれど、アスカはこうも考える。パートナーに裏切られた時点で目に見えない不幸は始まっているのだ。目に見えない不幸は、生活の端々に顔を覗かせ、やがて余計なひずみを生む。そのひずみに気が付かない程、人間はバカじゃない。
「現段階では誰も不幸せになってないと私は思いますけど、いかがですか?」
ヒサシは静かにユウキに言った。
「……間違えてますよ、あなた」
「何をですか?」
ユウキの言葉にヒサシは眉間に皺を寄せる。何をふざけたことを言い出そうとしているのだ、と言いたげだった。
「誰も不幸せになっていないって、本気で思っているんですか?」
ユウキはヒサシを睨みつけるように見た。
アスカはユウキが何を言い出そうとしているのかわからず、ヒヤヒヤしていたが、彼の次の言葉を黙って待っていた。


dummy dummy dummy