小説「サークル○サークル」01-319. 「加速」
- 2013年08月08日
- 小説「サークル○サークル」
- サークル○サークル
中華レストランに向かう途中、レナといろんな話をしたけれど、アスカは上の空でろくに話を聞いていなかった。きちんと会話が成立していたのか、ふと気になる。
「ここ……ですか?」
思わず通り過ぎそうになったアスカの腕を取り、レナは言った。
「う、うん。そう。ここよ」
「ふふっ、アスカさんがぼーっとしてるなんて珍しいですね」
「そうね……。最近、仕事が忙しいからかな」
「お仕事のしすぎはダメですよー? 体調崩しちゃったら、元も子もないですから」
レナは笑顔でアスカを見る。この屈託のない笑顔を見ていると、アスカはレナは何も気が付いていないのだ、と思った。もし何もかも知っていて、こんな笑顔を向けられているのだとしたら、レナのしたたかさは大したものだ。不倫だって、納得がいく。けれど、レナはきっとそんな子じゃない、とアスカは思いたかった。
中華レストランの重いドアを開けると、赤を基調とした店内が見えた。すぐさま、ウェイターがやって来て、人数と喫煙の有無を訊いた。アスカの返答を聞くと、ウェイターは歩き出す。アスカとレナもそれに続いた。
アスカとレナが通されたのは、比較的静かな奥の席だった。席に着こうとした瞬間、視線を感じて、アスカは立ち止まる。すると、一人の男がこちらをじっと見据えていた。