小説「サークル○サークル」01-227. 「加速」

アスカは自分で映画を選んでおきながら、映画が終わりに近づくにつれて、次第に嫌な気分になっていっていた。最初はレナへの当てつけのように感じていたものの、中盤に差し掛かったあたりから、まるで自分への戒めのような気がしてきたのだ。
久々の映画鑑賞だというのに、映画を楽しむ、という気分にはなれなかった。勿論、アスカは仕事としてレナに接近する為に映画を観ているのだから、楽しむ必要はない。けれど、嫌な気分になる必要性もないのだ。
溜め息が漏れそうになるのを喉元でくっと止めて、アスカは字幕を追った。
映画はクライマックスに近付くにつれて、ハッピーエンドへと向かって行く。
主人公は浮気をされている女なのだから、ハッピーエンドは言うまでもなく、夫が不倫相手と別れて、自分の元へと帰ってくることだ。
けれど、見方を少し変えて、不倫相手の女が主人公だったら、男が妻と別れて自分のところへやって来るのが、ハッピーエンドとなったはずだ。
立場によって、ハッピーエンドは異なる。映画としては、ハッピーエンドという終わり方をしていたけれど、不倫相手の女に感情移入して見ていたアスカは、バッドエンドを迎えたような気分だった。


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