小説「サークル○サークル」01-385. 「加速」

 作家は自分とは全く別の人物の人生を描く。それはどこかに自分と共通点を持った他の誰かだ。
 シンゴが新しく書き上げた小説はアスカをモチーフに書いた。勿論、アスカのことが出てくるのだから、自分のアスカへの想いも十分に反映されている。そして、それがシンゴやアスカの知らない誰かに読まれるのだ。
 シンゴは自分の経験を元に小説を書くことに抵抗がなかったわけではない。けれど、書かなければならない、という一種の使命感とも取れる感情に突き動かされて、一気に書き上げた。
 自分の根底にある部分を露呈させなければ、小説を書けないことをシンゴは知っている。それが仕事だと思うからするのであって、仕事でなければ隠して生きていただろう。そういったことすらも、厭わないのが作家だ。
 仕事と割り切ることが時に必要となる。それは仕事が好きだからかもしれないし、その仕事をこなさなければならないからかもしれない。または、それ以外の理由からかもしれない。いずれにしろ、アスカのように考え過ぎてしまうのは良いことだとは思えなかった。


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