小説「サークル○サークル」01-112. 「加速」

 息を止めて、シンゴはメールの本文に目を通す。そこには相手の近況と仕事の依頼をしたいという内容が書かれていた。
「まさか……」
 シンゴは信じられないといった面持ちで、再度メールに目を通した。何度読んでもメールには仕事の依頼について書かれていた。シンゴは高鳴る胸を落ち着けようと、席を立ち、コーヒーを淹れた。ミルクをたっぷり入れて、口をつける。そして、もう一度、画面を見た。そこには先程、二度読んだメールが表示されている。シンゴはマグカップをパソコンの隣に置くと、キーボードに手を伸ばした。
 なんて書こうかなんて考えてはいなかった。けれど、書くべきことは一つしかない。仕事を請けたい、それだけだ。勿論、今のシンゴに小説が書けるのかなんてわからない。書こうとしても書けないかもしれない。けれど、いつまでも書けないと立ち止まっているわけにはいかないのも確かだ。
 差出人の名前を見て、シンゴは大きく息を吐く。酸素が身体中を駆け巡るような気がした。呼吸を整えると、シンゴは元妻にメールを書き始めた。


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