小説「サークル○サークル」01-116. 「加速」

 シンゴが作家として機能しなくなった理由は二つある。一つ目は優秀な編集者を失ったこと、二つ目は離婚のショックが思いの外、大きかったことだ。このどちらもが彼が作家として生きていくことを難しくさせた。作家はそれ単体で生きているわけではない。勿論、作品を書いている時は一人での作業だが、作品をチェックし、より良いものへと昇華させるには担当編集者の力が必要だ。一概には言えないが、担当編集者によって、良くも悪くもなる部分がある。本来なら、依存関係にはないものの、シンゴは自分の妻であるという身近な存在だった為に、いつしか通常の作家と担当編集者というだけの関係を越えすぎてしまっていた。精神的にかなり寄りかかっていた彼は離婚するまでそのことの大きさに気が付いてはいなかった。けれど、元妻は一切そのことについて触れることはなかった。内心、重く感じていたのかもしれない。それでも、シンゴへの愛情が途切れることはなかったから、じっと耐えていてくれたのかもしれない。なのに、シンゴは元妻に離婚を切り出した。元妻は最初頑なに別れたくないと言い、考え直してほしいとも言った。しかし、嫌だと言われれば言われる程、シンゴは別れたくなっていった。そうして、元妻の意見が聞きいれられることはなかった。


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