小説「サークル○サークル」01-152. 「加速」

 シンゴはさえない顔をして、公園のベンチに座っていた。冴えない男の前には鳩すら寄ってこない。遠くで群れをなす鳩に視線を投げかけ、シンゴは溜め息をついた。
 あぁ、また幸せが逃げた、と思うけれど、溜め息を止めることは出来なかった。
 仕事は順調だ。小説をこんなにすらすら書ける日が来るなんて、夢にも思いはしなかった。まだなんだか夢の中にいるような気さえしていた。
 シンゴにとって、仕事が軌道に乗り始めるということは。自分にとってもアスカにとっても良いことだというのはよくわかっている。アスカの嬉しそうな顔を見ていると本当に良かった、とも思う。
 けれど、シンゴはそういった類の喜びに浸れず、ただただ溜め息をつき続けていた。
 アスカの浮気のことが気になって仕方がないのだ。一時期は仕事さえ手につかなくなりかけた。しかし、仕事には締切もあるし、何よりアスカの浮気のことばかり考えていたら、気が狂いそうになってしまう。
 嫌な考えを払拭しようと、シンゴは仕事に打ち込むようになっていった。


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