小説「サークル○サークル」01-154. 「加速」

 シンゴはアスカの言葉を一人反芻する。どうしても、「潮時かなって」という一言が引っかかって仕方なかった。決して、良い意味ではないようにシンゴには思えた。
 彼は椅子の背もたれに寄りかかったまま、パソコンの画面を遠くから見据える。次に入力される文字を待ちながら、点滅するラインをじっと見つめた。
 アスカの今までの仕事振りを見ていると、アスカがバーを辞めた理由が、バーでの情報収集が終了したからというのは嘘ではないだろう。けれど、あれだけ、ターゲットに入れあげているアスカが何事もなく、バーを辞めるだろうか。シンゴが引っかかっているのはその点だった。
 きっとターゲットと何かしらの接点をバー以外で持てたから、バーを辞めたに違いない。シンゴはそう踏んでいた。
 やはり、浮気を継続して、自分とは別れるつもりなのだろうか。そう考えるだけで、シンゴは遣る瀬無い気持ちでいっぱいになる。そんなことは今すぐ思い止まってほしい。けれど、そんなことを言える立場ではないことはシンゴ自身が一番よくわかっていた。


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