小説「サークル○サークル」01-190. 「加速」

「夕飯出来たよ」
 シンゴの声がキッチンの方から聞こえる。自分がどれだけクローゼットの前でぼーっとしていたかを思い知らされた。アスカは自分が思っている以上に、ヒサシのことを気にしている。ターゲットだということを頭では理解していたが、心の方が言うことを聞かないらしかった。
 アスカは溜め息をつくと、リビングへと向かった。

 リビングに行くと、ガーリックのいい匂いが漂ってくる。
「今日の夕飯は?」
 アスカは席に着きながら言う。
「今日はカルボナーラだよ。アスカ好きだろ?」
 シンゴは卵を黄身だけにする作業をしながら言う。
「うん、ありがとう」
 アスカは答えながら、カルボナーラが好きだったのは、数年前だったんだけどな……と心の中で思う。好きは好きだが、ここ最近のアスカはカルボナーラを食べなくなった。年と共に、胸やけを起こすことがちらほらあったからだ。しかし、シンゴはその事実を知らない。シンゴとの距離は一時より明らかに縮んではいるが、それでもまだとても近いところにいるわけではないのだとアスカは痛感していた。


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