「アスカさんが不倫……ですか?」
「そう。間が差したって言うか……ううん。ただ彼のことが好きだったのね」
アスカは昔話を懐かしむように静かに語り出す。レナはその語り口に引き込まれていた。
「彼は随分と年上で私から見たらとても大人だったの。優しいし、紳士的だった」
そこでアスカは言葉を区切り、再び続けた。
「それに同世代の男の子と比べたら、お金も持っていたわ」
くすりと笑って、アスカは言う。
「同世代の男の子にはない安心感もあったし、楽しさもあった彼にハマるのにそう時間はかからなかったの」
アスカはレナの表情を伺いながら、話を進めていく。レナのどんな表情も見落とすわけにはいかなかった。
アスカはそこで一呼吸置いて、パスタを口に運んだ。オイルソースが唇につき、キラキラと光る。レナはオイルソースでキラキラと光るアスカの唇に思わずじっと見入ってしまった。
その唇から紡がれる次の言葉を待っていたのだ。
アスカはオイルソースを紙ナプキンでぬぐうと、水を一口飲み、続けた。
みなさん、こんちには☆
森野はにぃです。
2月もすでに半分が過ぎちゃいましたね~。
バレンタインデーも終わっちゃったし、すでに待ちはひな祭り気分ですよね。
「ワンダー」もとうとう佳境に入って来て、もうすぐ最終回を迎えます。
ぜひぜひ残り少ない(とか言ってて、長くなっちゃったらすみません……!)
「ワンダー」をよろしくお願いしまーす☆
それでは、引き続き、「ワンダー」をお楽しみ下さいませ☆
「どうして?」
アスカはレナの真意が汲み取れず聞き返す。
「アスカさんは完璧な人と付き合ってるのかなって、思っていたから」
「そんなことないわよ。完璧な人には憧れるけど、結局、最終的に選ぶ人はそういう人じゃないのよね」
「どうしてですか?」
「そうねぇ……。完璧であることより、大切なことがあるからかしら。完璧な人は憧れもするし、尊敬もするわ。自分が完璧ではないから。だけど、それだけじゃ、人間はダメなのよ」
アスカの話にレナはうんうんと頷きながら聞き入っている。
お酒も入っている所為か、アスカは上機嫌で話をし、仕事だということを忘れそうになる。
「極端な話、完璧な人がいいなら、ロボットでもいいわけじゃない。だけど、どこか不完全なところがあるから、その部分を自分が補ってあげたい、助けてあげたいって思うのよ。補うところがない人は、自分がその人のそばにいる明確な理由をなくしてしまうでしょう」
「確かに……」
「昔ね、不倫をしていたことがあるの」
アスカは緻密に練ったシナリオを語り始めた。
適当に注文を済ませ、アスカはレナと他愛ない会話を交わす。アスカがしたいのは、こんな話ではない。けれど、すぐに本題に入ってしまっては、警戒される恐れがあった。すでにアスカはレナに自分が別れさせ屋であると名乗っているのだ。
お酒も進み、二杯目が運ばれてきたところで、アスカは口火を切った。
「レナちゃんは彼氏とかいるの?」
「はい……。一応」
「どんな人?」
アスカの問いに一瞬躊躇いを見せたものの、レナはヒサシのことを思い出したのか、すぐに笑顔に戻った。
「社会人なんですけど、頭が良くて、カッコ良くて、優しくて……素敵な彼です」
「へぇ、いいわね。羨ましいわ」
「アスカさんんは彼氏いるんですか?」
「一応ね」
アスカは言って苦笑する。勿論、演技だったが、結婚生活を続けていると、苦笑したくなることも多々あるのは事実だった。
「どんな彼氏さんなんですか?」
「そうねぇ……。不器用でどんくさくって、だけど、憎めない人よ」
「へぇ……意外です」
レナは大きな目を更に大きくして驚いた。
「ねぇ、やっぱり、今日はイタリアンでもいいかしら?」
アスカの言葉にレナはきょとんとする。
「実は普段は混んでいて入れないイタリアンが、この時間帯なら入れるのを思い出したの。ここなら、いつでも来られるし、どう?」
ここでエスニック料理がいいと言われれば終わりだったが、アスカが強引にここを出ようとしたら怪しまれる。賭けに出るしか方法はなかった。
「イタリアンですかー!? 大好きです!!」
レナは目をキラキラさせて、アスカを見た。
「じゃあ、イタリアンに行きましょう」
アスカは逸る心を抑えて、エスニック料理店を出た。
レナに気付かれないように、アスカはほっと胸を撫で下ろす。
「こっちよ」
アスカは来たのとは反対方向に歩き出した。
イタリアン料理店はアスカの言う通り、席に空きがあり、すぐに通してもらえた。
「ここのピッツァは雑誌やテレビで紹介されるくらい有名なの」
「あっ、私も見たことあります! この前、お昼の番組で紹介されてました」
レナが嬉しそうに話すのを見て、アスカはここにして良かったと思った。