小説「サークル○サークル」01-276. 「加速」

「僕は仕事に一生懸命なアスカが好きだし、カッコイイと思ってる。だから、今のままでいいよ。勿論、家事を頑張ってくれるのも嬉しいけど、無理をしてまでやってほしいとは思わない」
 シンゴはアスカを傷つけないように言葉を選びながら話した。そんなシンゴの言葉を聞いたアスカは、どことなく嬉しそうだった。しかし、目は未だに潤んでいる。
 その反面、シンゴは自分の口から出た言葉に驚いていた。さらりと「アスカが好き」と口をついて出たのだ。その事実に戸惑いを隠せない。
 シンゴは浮気をしているアスカのことをただ憎いと思っているのではないか、と思っていた。けれど、違ったのだ。
 好きだから、ただ浮気をやめてほしい。その思いだけでシンゴはアスカの尾行をし、気持ちを抑えつける為に小説を書いているのだ。アスカに直接自分の思っていることをぶつけてしまえば、アスカとの関係がぎくしゃくし、終わりを迎えてしまう。そのことをシンゴはまだ受け入れたくなかったのだ。
 そうした自分の本心に気が付いた時、人は面食らい、呆然とするのだということをシンゴは身をもって知った。


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